医療裁判が難しい理由 | 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

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医療裁判が難しい理由

医療裁判が難しい理由

医療裁判の難しさを一言で表現するならば、裁判で繰り広げられる議論の中心が医学論争になってしまう点にあると言えます。

しかし、その難しさの本質を掘り下げていくと、事はそう単純ではありません。

時に、医師免許を有している弁護士や、医学博士の学位を取得している弁護士にとっても、医療裁判は、とても難しい裁判になることがあります。

なぜ、医療裁判は、それほどまでに難易度が高いのか、その理由を掘り下げてみましょう。

1.立証責任は患者側にある

医療裁判の難しさの理由として、立証責任が患者側である原告にある点です。

要するに、原告は、医師の過失の内容をある程度特定するとともに、その過失行為のせいで結果が生じたことまでも立証しなければなりません。

これは医療裁判に限られたものではなく、原告に立証責任があることは、医療裁判以外の不法行為責任・債務不履行責任を追及する裁判すべてに共通します。

しかし、医療裁判は、議論の中心が医学論争になる裁判です。

交通事故や契約違反を問う裁判とはことなり、立証のテーマが非常に専門的なのです。

医師の過失の具体的内容は何なのか、手技ミスなのか、縫合不全なのか、あるいは異常所見の見落しなのか、治療方法を誤ったのか、などといったことを明らかにしていかなければなりません。

それを前提に、では、医師としてどうすべきだったのか(注意義務の特定)、いつ、どのような所見に基づき、いかに診断すべきだったのか、いつ頃までに具体的にどのような治療を実施すべきだったのか、を裁判で論じなければならないのです。

このような議論を展開していく中で、医療裁判においては、医学論争を避けることができません。

ということは、患者側が医師の過失と因果関係を医学的知見に基づいて立証していくことになります。

2.素人が専門家を訴える

上記の通り、原告に立証責任がある裁判になることに加えて、その立証責任を負っている原告が医学の素人であることは、患者側にとって、医療裁判を益々難しいものにします。

要するに、素人が医師の過失と因果関係を医学的に立証しなければならないのに対して、専門家である医師・医療機関側は、医療過誤でないことを立証する必要がない、ということになります。

例えて言えば、格闘技の経験がない人がプロの格闘家をノックアウトしなければ勝利できないのに対し、プロの格闘家はその素人をノックアウトする必要はなく、引き分けでも勝ちになる、というルールで闘っているようなものなのです。

これだけを考えても、如何に医療裁判が原告である患者側にとって難しく、ある意味アンフェア-な闘いを強いられる裁判なのか、容易に理解できると思います。

3.証拠が偏在する

既に述べたように、患者側に立証責任があるにもかかわらず、医療裁判で必要となる証拠はすべて医療機関側にあるという点も、医療裁判をいっそう難しいものにしています。

医療裁判の歴史は、医療機関側に偏在した証拠をどのようにして手に入れるかの歴史だったという側面もあるのです。

確かに、今日では、証拠保全によって医療機関側に偏在している証拠資料を患者側が入手することは容易になり、また患者さん自身が診療記録等の開示を要求すれば、これに応じる医療機関も増えてきたので、昔と比べれば、この証拠の偏在の問題はかなりの程度解決されたと言えるかもしれません。

しかしながら、これらの方法で証拠資料を患者側が入手するまでは、すべての証拠が医療機関側にあることに変わりはなく、カルテ改ざん等のリスクは依然として残っています。

4.真実は医者にも分からない

わかりやすい例で癌の見落しで考えてみましょう。

医師が単純胸部X線撮影で肺癌が疑われる異常陰影を見落としたとします。

その5ヶ月後に肺癌が見つかり、すでに手遅れ…。さて、医師が異常陰影を見落とした5ヶ月前の肺癌って、どの程度の病期だったのでしょうか?

リンパ節転移はあったのかなかったのか、もしかして、5ヶ月前にすでに遠隔転移していた可能性は本当にないのか?

実はどんな名医であっても真相は分からないのです。

5ヶ月前に癌を見落としてしまったため、精密検査をしていません。

なので、その時点の肺癌がどの程度進行していたものなのかは神のみぞ知る。

しかしながら、どの程度の進行癌かがわからなければ、患者さんの予後もわかりません。

5ヶ月前に癌を見つけていたら本当に助かったと言えるのか、をある程度具体的に論じなければ、因果関係を主張・立証できません。

専門家である医者でも厳密には分からないことを、限られた情報の中から推測して論じなければならなりません。

これは患者側の弁護士にとって、かなり高いハードルになります。

その弁護士さんが医師免許を持っている人であっても同様なのです。

5.領域が広く、かつ奥行きも深い

医療の分野は、法曹界とは違って、日進月歩で進歩しており、その専門性も増すばかりです。

例えば、脳神経外科などでは、手技ごとに専門家がいるそうです。

弁護士の業界で例えれば、離婚の分野で親権の専門家、財産分与の専門家がそれぞれいるようなものです(そのような専門家は現実にはおりませんが)。

他方で、私たち弁護士が医療ミス・医療事故の分野を扱ったとしても、さすがに循環器専門とか、呼吸器専門家というわけにはいきません。

せいぜい、医療紛争の専門家止まりです。

そもそも、医療紛争の分野を専門としている弁護士自体が極めて少数派であるのに、医学の分野毎に専門性を高められるような環境にはありません。

ところが、私たち患者側の弁護士が医師・医療機関を相手に裁判を起こす場合、その相手方は医学の専門家というよりは、循環器あるいは呼吸器の専門家なのです。

したがって、裁判を起こす度に私たちが勉強しなければならない医学は、医学生のレベルではなく、本当の専門家と闘えるようなレベルの勉強をしなければなりません。

医療裁判で患者側弁護士に求められる医学的知見というのは、そのようなレベルなのです。

これが如何に大変なことかお分かりだと思います。

6.医学文献を揃えるのに膨大なコストがかかる

まず、医学文献は非常に高額で、これを法律事務所・弁護士事務所が揃えるとなるとかなりの費用負担となります。

例えば、私たちの医学蔵書にある「心臓血管外科テクニック・Ⅰ弁膜症編」(メディカ出版)という書籍がありますが、これは索引まで入れて152頁しかありませんが税抜きで2万円です。

「新臨床内科学・第9版」(医学書院)の縮刷版は税抜きで1万8000円、「感染症専門医テキスト・第Ⅰ部解説編」(南江堂)は2万7000円もします。

「日本臨床増刊号・乳癌(第2版)」(日本臨床社)は、これは雑誌ですが税抜きで1万8000円もします。

この値段は、法律の専門書と比較すると歴然としています。

「実務医事法(第2版)」(民事法研究会)は788頁もあるのに6600円、「判例にみる医師の説明義務」(新日本法規)は501頁で4100円、「医療訴訟の実務」(商事法務)は637頁で税抜き7000円です。

要するに、法律の専門書では、かなり大書でも1万円を越えるものは基本的にありません。

いかに医学の専門書が高額かご理解いただけると思います。

そこで、弁護士の中には図書館に通う人もいるようです。

しかし、これでは非常に業務効率が悪くなります。

例えば、訴状を作成している過程でヒントを思いつくことはよくあるのですが、そのような時に手元に文献がない。

ちょっと調べたい、気になる点があるという度に図書館に通っていたのでは、業務に支障が出ます。

そうすると、弁護士の中には、医学文献に基づかずに想像による主張を展開するなどといった手抜きが始まります。

また、弁護士の中には、インターネット上の文献に頼る人もたくさんいます。

驚いたことに、患者側だけではなく、医療機関側の弁護士でさえインターネット上の文献を証拠として提出してくる場合がけっこうあります。

確かに、ネット社会が発達した今日、かなりの専門的知見もインターネットで入手できる時代にはなりました。

しかしながら、インターネットで検索した文献は、出典が明らかでないものも多く問題があります。

当然ですがその証拠としての価値も下がります。

なぜ多くの弁護士が図書館やインターネット上の情報に頼るのかというと、確かに前述したように医学文献が非常に高額であることも原因となっていますが、医療紛争を専門分野として取り扱っていないことも大きな要因となっています。

どういうことかと言うと、たまに取り扱う医療事件のために、高額な医学文献を揃えるのは費用対効果が悪く、割に合わないということなのです。

このような現状は、普通の弁護士に限られたことではなく、医師免許を有している弁護士や、医学博士の学位を有している弁護士でも同様なので注意が必要です。

その弁護士が、医学の分野に対して専門知識を持っていることと、その弁護士の所属する弁護士事務所・法律事務所にどれだけの医学書が整備されているかは全く別の問題なのです。

試しに相談しようとしている弁護士に、「どれだけの医学文献を揃えていますか?」と訊ねてみてください。

ほとんどの弁護士が医学文献を所内に備え置いていないことを確認できるはずです。

7.協力医を確保することが容易ではない

医療事件では、患者側が協力医を確保することは容易ではありません。

その理由はいくつかあるのですが、最大の理由は、多くの医師が患者側に協力することを嫌っている点です。

医師は、基本的に同業者を庇う傾向が強いと思います。

次に大きな理由としては、医療の世界では、専門性が高度で細分化されすぎており、適切な協力医を見つけ出すのが容易ではないという点を指摘できます。

例えば、心房細動アブレーションの手技上の過失を理由に、病院を訴えたい場合に、循環器の医師であれば協力医は誰でもよいということにはなりません。

やはり、心房細動アブレーションに関する経験がある程度ないと、協力医として適任とは言い難いと思います。

さらに、医師同士の人間関係も関係してきます。

私たちがよくお願いする協力医の先生の中には、「東京の病院が相手なら協力できるが、愛知県の病院だと困る」とおっしゃる先生がおられます。

その医師は、名古屋で開業しているため、愛知県内の病院が相手だと、しがらみ上、困るそうなのです。

したがって、私たちがよくやるのは、東京や首都圏の病院を訴える場合には、協力医は名古屋や大阪の医師から選び、逆に地方の病院を訴える場合には、東京の医師に協力をお願いしたりします。

そうすると、広い範囲で協力医のネットワークを築いている弁護士でないと、なかなか適任の協力医を見つけられなかったりします。

次に、仮に適切な協力医が見つかったとしても、その協力の程度は完全なものとは限りません。

まず、「アドバイスはしてもよいが、名前が表に出るのは困る」、という協力医の先生もけっこうおられます。

また、「名前が表に出るのはかまわないが、法廷に出廷して証言するのは勘弁してくれ」という協力医の先生もかなりおられます(大部分がそうです)。

理想的には、名前が表に出ても大丈夫で、かつ法廷にも出廷できるという協力医がよいのですが、このような協力医は極めて少数派で、どちらかといえば例外です。

したがって、協力医を見つけられても、意見書を作成してもらえるのが精一杯なので、どうしても医学文献等で補わないと十分な議論を展開できないのです。

これは何を意味するのかというと、適切な協力医が見つかったからといって、患者側の勝訴が約束されたものになるわけではなく、医療訴訟を起こす弁護士の医学的知見のレベルや経験値がかなり重要になってくるということです。

協力医が作成した意見書を丸写しするような訴状を書いていたのでは、到底医療裁判などできません。

8.訴える患者側にとって、お金が非常にかかる

最後に、患者さんやそのご遺族にとって悩ましいのは、医療裁判を起こすには、非常にお金がかかる点です。

弁護士に支払う成功報酬は基本的に心配しなくてよいと思います。

なぜなら、成功報酬は、裁判で勝訴するか、和解が成立して病院が賠償金の一部を支払う場合にしか発生しませんので、その中から弁護士費用の支払に充てることができるからです。

しかし、弁護士に医療裁判を依頼するには、着手金がかかります。

患者さんが死亡したり、重篤な後遺障害が残る場合が多い医療裁判では、医師や病院に請求する損害賠償額が数千万円に及ぶことは珍しくなく、時に1億円を超えることすらあります。

弁護士の着手金は請求額を基準に算定されますので、どうしても高額化する傾向があるのです。

ケースや請求額にもよりますが、着手金だけで100万円を超えるケースが多いと思います。

しかし、これは、あくまでも医療裁判の着手金です。

医療調査を経ずしていきなり裁判を起こす弁護士はほとんどおらず(もしいれば、悪徳弁護士との誹りを免れません。

勝訴の見込みもないのに、依頼者から高額な着手金を取れるからです)、通常は、医療過誤の可能性があるか否か調査することになります。

そのために診療記録を入手する方法として証拠保全を弁護士に依頼すれば、その時点で証拠保全の弁護士費用が数十万円かかります。

そして、診療記録を入手した後で、協力医にそれを分析してもらうことになりますが、ここで協力医に対する謝礼が発生します。

金額は協力医の先生によっても異なり、また分析しなければならない記録の量にもよるのですが、相場では3万円程度から10万円までといったところでしょうか。

しかも、協力医からアドバイスをもらうのが1回限りとは言えません。

裁判を起こせば、当然に被告である病院側から反論が来ます。

その反論を踏まえて、協力医に確認したいことが新たに出てくることもよくあります。

その度に、協力医に支払う謝礼が必要となってくることもしばしばです。

そして、注意しなければならないのは、これらはあくまでも診療記録を分析し、弁護士に助言するまでの費用に過ぎない点です。

裁判所に提出するための意見書を作成してもらうとなると、協力医に支払う謝礼金として30万円から50万円程度はかかります。

もし裁判の途中で、裁判所に中立な医師を鑑定人として選任してもらいたいとなると、またここでお金がかかります。

意見書を作成する医師は、患者側であれ医療機関側であれ、一方当事者のために意見書を作成しているわけなので、中立的ではありません。

そこで、医療裁判の場合、中立な医師である鑑定人の意見を仰ごうという展開になることも珍しくありませんが、ここでも数十万円以上の鑑定費用がかかってしまうのです。

しかも、高いお金を支払ったからといって、患者に有利な意見を述べてくれるとは限りません(中立的な医師なので当然ですね)。

仮に患者側に不利となる意見を述べたとしても、高い鑑定費用を支払わなければならないというのは、ちょっと悔しいですよね。

さらに、医療裁判では実費もバカになりません。

協力医が近郊の医師とは限らず(むしろ、被告病院とのしがらみがない医師を選ぶためには遠方の医師を選ぶことが多いです)、弁護士が一日がかりで出張しなければならなくなることも珍しくありません。

そうすると、航空券や新幹線などの旅費交通費もけっして安くありません。

また、請求額が高額であることから、訴訟を起こすときに、国に支払う訴訟費用(相当額の収入印紙を訴状に貼ります)も数十万円に及ぶことが多いです。

裁判所も無料で裁判を受け付けてくれるわけではないのです。

そうすると、医療裁判が終わるまでにかかる費用の内訳は、弁護士に支払う費用よりも、それ以外の費用をトータルした金額のほうが大きくなってしまうことも珍しくありません。

なお、弁護士費用は弁護士事務所・法律事務所によっては分割支払に応じるところもありますが、それ以外の費用は基本的にすべて一括払いが要求される点にご注意ください。

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