【妊娠について】分娩の基礎知識 | 医療事故 医療過誤 / 弁護士法人ALG&Associates

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分娩の基礎知識

分娩の基礎知識

総論

正常な分娩とは、①妊娠37週から41週6日に自然に陣痛が起り、②胎児が形質的に前方後頭位で出産され、③分娩所要時間が初産婦で30時間未満 、経産婦で15時間未満、④母子とも経過良好である場合を言います。

正常分娩の進行

分娩の進行は、3期に分けることができます。

(1) 開口期(第1期) 分娩開始から子宮口が10cm開大するまで

(2) 娩出期(第2期) 子宮口が全開大から児娩出まで。

(3) 後産期(第3期) 児娩出から胎盤及び卵膜が娩出するまで

児頭の回旋

分娩時、狭く屈曲した産道をとおりぬける為、胎児は4段階の動きを行います。これを回旋といいます。

最初の3回の回旋は、児頭を下降させる 為に、最後の1回は肩甲を産道から出すために行います。

分娩時の問題

(1) 切迫早産

ア 定義

切迫早産とは、妊娠22週以降37週未満に、子宮収縮、性器出血、下腹部痛、破水などの症状に伴い、子宮口開大や頸管短縮が認められる状況を言います。

イ 切迫早産の管理と治療

切迫早産の治療としては、妊娠週数が34週未満か否かや、破水の有無等により異なります。

① 破水していて34週未満の場合には、可能な限り妊娠を継続させる為、子宮収縮抑制薬の投与(塩酸リトドリン、硫酸マグネシウム)を行い、子宮収縮による分娩の進行を抑制します。

また破水後の感染予防の為に、抗菌薬の投与も行います。

② 破水していて34週以降の場合には、自然分娩や分娩誘発の対応が考えられます。

③ 破水がなく、胎児が安全である場合は、安静にし、妊娠を継続させて胎児を発育させることが重要です。その為、子宮収縮抑制薬の投与の他、34週未満の場合には、副腎皮質ステロイドの投与により児肺の成長を促します。

また頸管熟化の抑制の為、ウリナスタチンの投与を行います。

ウ 早産に備えた対応

① 妊娠34週未満の早産では、新生児集中治療室における管理が必須であり、対応できる高次周産期施設に母体搬送することを考慮しなければなりません。

② 34週以降でも、母体の合併症や胎児異常、胎児発育遅延、胎児機能不全が認められる場合には、同様の対応を行うことになります。

③ 分娩様式は、母児の状況によるが、経腟分娩を試みる場合にも、常に帝王切開が可能な体制を準備しておく必要があります。

(2) 微弱陣痛

ア 定義

微弱陣痛とは、陣痛発作の回数と規則性、持続時間、子宮収縮の強さのいずれか又は全てが不十分で、結果として分娩が進行せずに分娩遷延(初産婦で30時間、経産婦で15時間経過しても出産に至らない場合)となる場合をいいます。

イ 分類

微弱陣痛には、

①分娩開始時点から陣痛が弱く分娩が進行しない原発性と、

②正常に進行していた陣痛が途中から微弱になり分娩の進行が遅れる続発性がある。

① 原発性微弱陣痛は、多胎妊娠や羊水過多症、巨大児、胎位異常、妊婦の肥満、高齢出産等の原因が考えられます。

② 続発性微弱陣痛は、 頸管の熟化不全や狭骨盤といった産道の異常、巨大児、多胎妊娠、回旋異常、妊婦の肥満、高齢出産といった原因が考えられます。

ウ 治療

待機(休養)し陣痛が回復するか否かを観察します。また、経口で水分を摂取し、又は輸液により、脱水の補正をします。

それでも陣痛が回復しない場合、オキシトシンやプロスタグランジンといった子宮収縮促進薬の投与を試みます。

但し、児頭骨盤不均衡(CPD) や前置胎盤、常位胎盤早期剥離といった事情がある場合、子宮収縮促進薬の投与は禁忌となります。

従ってCPDが疑われる場合には帝王切開、胎児機能不全が疑われた場合や胎児の下降が見られない場合には吸引分娩や鉗子分娩が考えられます。

(3) 弛緩出血

ア 定義

弛緩出血とは、分娩第3期以降に、子宮収縮不全により凝血を含む暗赤色の出血(500ml以上)をきたした状態であり、妊産婦死亡の主要な原因となっています。

全分娩の約10%に見られ、後産期異常出血の75%を占めます。出血量が1000ml~2000ml上になることもあります。

イ 弛緩出血の原因(子宮収縮不良の原因)

弛緩出血の原因としては、巨大児、羊水過多といった原因による子宮の過伸展や、子宮筋の疲労、子宮筋腫や子宮奇形合併妊娠といった子宮の病変、子宮腔内の遺残物などがあります。

ウ 弛緩出血の治療

治療としては、弛緩した子宮の治療を行い、状況に応じてショック症状への対応を行うことになります。

出血が多量に認められる場合には、全身管理を行います(バイタルサインのチェック、輸液ルートの確保、輸血準備等)。

子宮腔内に胎盤及び卵膜の遺残がないか確認し、遺残があれば直ちに除去します。

また、弛緩した子宮に対しては、子宮収縮を促す為、双手圧迫、子宮底輪状マッサージ、下腹部冷罨、子宮収縮薬(麦角アルカロイド製剤、オキシトシン製剤、プロスタグランジン製剤等)の投与を行います。

出血性ショックに対しては、抗ショック療法(輸液、輸血など)、産科DICに対しては、抗DIC療法(FFP、AT、濃厚血小板)、を行います。

以上の治療が奏功しない場合には内腸骨動脈結紮術、子宮動脈塞栓術(UAE)、単純子宮全摘術等を行います。

(4) 子宮破裂

ア 定義

主に分娩時に起こる子宮体壁の裂傷であり、裂傷の程度により全子宮破裂(子宮体・腹膜ともに損傷するもの)と不全子宮破裂(筋層のみに限局して腹膜の健全な場合)とに分類されます。全子宮破裂と不全子宮破裂の割合は9:1程度です。

発症すると、母体の死亡率は4%前後、胎児死亡率は20%~80%に上る極めて重篤な疾患です。

イ 原因

巨大児や羊水過多等による子宮下部の過度伸展、帝王切開や筋腫核出術など産科手術の既往による子宮筋の解剖的変化、子宮収縮促進剤の過剰投与等が考えられます。

ウ 症状

突然の腹部激痛を生じ、その後、患者の状態は急変し、顔面蒼白やチアノーゼ、冷汗、脈拍上昇、血圧低下等の症状を呈する。また陣痛は減弱・喪失し、胎動は当初2~3分は活発であるが、胎児機能不全に陥るとやがて胎児死亡となります。

エ 治療

過強陣痛や呼吸促迫、脈拍上昇、反射性服圧、発熱、顔面紅潮の徴候が生じたら、子宮収縮抑制薬の投与を行うなどして子宮破裂を予防することが考えられます。

破裂後は、胎児を帝王切開術により娩出して子宮を摘出するほか、出血性ショック症状に対しては、輸液・輸血・気道確保等、抗ショック療法を施し、母体の全身管理を厳重に行う必要があります。

(5) 頸管裂傷

ア 定義

頸管裂傷とは、子宮腟部から子宮頸部に及ぶ裂傷をいいます。

多くは外子宮口の一部が断裂する程度ですが、時に、裂傷が内子宮口を超えて子宮体部に及ぶと出血性ショックに至る場合もあります。

イ 原因

頸管の全開大前に強行する牽出術や吸引分娩、鉗子分娩、反屈位や巨大児等による頸管の過伸展、頸管の伸展性の異常等が考えられます。

ウ 治療

ショック症状に対しては、輸液・輸血・気道確保等、抗ショック療法を施し縫合止血を行います。但し、裂傷部分が深部に及ぶ場合には、開腹手術に切り替えて確実な止血を行います。

(6) 子宮内反

ア 定義

子宮内反症とは、分娩第3期から産褥初期に発生するもので、子宮体部が反転して頸管内に下降するか、またはこれを通過して脱出するものをいいます。

発生頻度は少ないが、発症すると激しい疼痛と大量の出血を伴う為、ショック状態に陥りやすく母体死亡に至ることもあります。

イ 原因

発症原因としては、頸管拡大時の腹圧羊水過多や多胎妊娠による子宮筋の弛緩、癒着胎盤、過短臍帯といった自然発生的なもの、臍帯の過度の牽引や胎盤用手剥離といった外力によるもの等があります。

ウ 治療

① ショック症状がある場合は、まず、抗ショック療法(保温、輸液、輸血等)を行います。

② 胎盤は完全に剥離させた上で、内反した子宮体を2指で徐々に圧入し、整復します。用手的整復が失敗した場合には、回復により整復を図ります。

③ 整復に成功したら、子宮収縮剤を投与し、子宮収縮を図ります。

(7) 癒着胎盤

ア 定義

癒着胎盤とは、胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤の一部又は全部が子宮壁と強く癒着して児の娩出後、子宮収縮に伴う自然な胎盤剥離が見られないものをいいます。

頻度は0.02%程度と非常に稀ですが、前置胎盤の既往がある妊婦は、そうでない妊婦に比べて癒着胎盤の合併率は2000倍に増加するといわれています。

イ 診断

胎児娩出後、長時間経過しても胎盤剥離徴候がなく、時には一部剥離した部分から大出血が見られ、胎盤用手剥離(分娩第3期が長時間遷延した場合に、手で胎盤を取り出そうと試みる胎盤娩出法)にて剥離が困難な時、癒着胎盤を疑います。

ウ 治療

胎盤が完全に娩出されない場合、多量出血や感染の危険があります。

この為、直ちに子宮摘出を要する場合が多いです。

胎盤用手剥離を試みる場合は、多量出血のリスクを考えて準備を整える必要があります(輸血、麻酔などの態勢が整っていることが理想)。

また、胎盤が自然に剥離しない場合でも、待機することにより、自然に娩出されることがある為、すぐに胎盤用手剥離を行わない場合もあります。

(8) 羊水塞栓症

ア 定義

羊水塞栓症とは、羊水成分が母体血中に流入し、急性呼吸循環不全をきたす疾患或いは症候群をいいます。2万~3万分の1程度の発症率で稀な疾患ですが、母体死亡率は60%~80%と非常に高いといえます。

イ 症状

分娩第1期後半或いは破水後に、突然の呼吸困難や血圧低下、チアノーゼ、腹部痛、痙攣、心停止等のショック症状を呈し、急激に進行して産科DICとなります。

ウ 診断

臨床所見としては、

①分娩中、帝王切開時、D&C時、分娩後30分以内に、

②急激な血圧降下又は心停止、

③急激な低酸素(呼吸困難、チアノーゼ、呼吸停止)、

④原因不明の産科DIC又は多量出血が発生する場合が、診断基準として挙げられます。

また、血液検査により、亜鉛コプロポルフィリン(Zn-Cp)とシアリルTN(STN)が認められ母体への羊水流入が証明された時も、羊水塞栓症との診断が可能となりえます。

エ 治療

羊水塞栓症は病因が未だ不明である為、根本的な治療は困難です。従って、酸素投与や抗ショック療法、抗DIC療法を行うことになります。

(9) 産科ショック

ア 定義

産科ショックとは、主に妊娠時や分娩時に生じた産科疾患によっておこったショック(生活機能が極度に低下した状態)であり、

①主要臓器への血液供給減少、酸素の運搬機能や代謝産物の排出機能の低下、組織への物質交感不良、蒼白、のことをいいます。

分娩時に、異常出血や肺塞栓によって、顔面蒼白、四肢冷感、頻脈、冷汗などを呈し、次第に呼吸不全、チアノーゼ、血圧低下、末梢血管虚脱等を呈すると、産科ショックが疑われます。

イ 原因

産科ショックの90%は、出血による出血性ショックであり、残りの約10%は非出血性ショックです。

ウ 治療

産科ショックでは、治療時期を逸すると不可逆的な状態に陥り救命が困難となる為、早期治療が大変重要となってきます。

原則としては、ショック自体の治療とともに、基礎疾患の除去や止血を並行します。

抗ショック療法としては、気道を確保し酸素投与をまず行うとともに、乳酸リンゲル液の急速輸液を行い、併せて、電解質異常と酸塩基平衡の補正も行う。

更に失血量と同量の輸血を行い、昇圧薬、強心薬、抗不整脈薬、利尿薬、ステロイド等を投与します。

エ ショックとDIC

産科ショックの内、常位胎盤早期剥離や弛緩出血、羊水塞栓症については、直接DICが引き起こされかつ同時にショックが引き起こされて、急速に進行します。

他方、子宮破裂や子宮内反症、頸管裂傷、癒着胎盤は、大量出血が続くと出血性ショックに続いてDICを発症するリスクがあります。

(10) 産科DIC

ア 定義等

DIC(播種性血管内凝固症候群)とは、様々な基礎疾患に合併して、血管内で血液凝固系が活発化され、全身のいたるところの比較的細かい血管に微小血栓が生じることをいいます。

しかも同時進行的に、血栓を溶かそうとする線溶活性化が亢進する為、凝固活性化とは本来相反するはずの出血もきたすという複雑な病態を有しています。

産科DICとは、産科的基礎疾患が原因で発症したDICをいいます。

イ 産科DICの特徴

産科DICは、内科DICに比して、急激に進行するという特徴を持っています。 また、臓器障害、出血症状とも出やすくなっています。

ウ 治療

基礎疾患の手術的除去が可能なことが多く、早期に対処できれば予後良好なことが多い。

従って、急速分娩や緊急帝王切開などを行いつつ、気道確保、酸素投与、輸液・輸血、昇圧薬投与などの抗ショック療法を行います。

またFFP(新鮮凍結血漿)の投与により出血症状に対する治療を行うとともに、アンチトロンビン(AT)濃縮製剤の投与により抗凝固治療を行います。

出血症状に対する治療はあくまでも対症療法である為、病態自体の改善には、抗凝固治療が必須になります。

妊娠具体例

微弱陣痛と陣痛促進剤の投与 胎児が骨盤位の場合の分娩と… 鉗子分娩の手技と医療過誤 常位胎盤早期剥離と胎児の死亡 羊水塞栓症を原因とするDICと… 帝王切開術後の出血性ショック… 出産後の問題である「核黄疸」

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