説明義務の内容 / 弁護士法人ALG&Associates

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インフォームド・コンセントと医療事故・医療ミス

説明義務の内容

説明義務の内容

説明義務の議論に話しを戻しますと、重要な論点は、大きく分けると

  1. 説明義務の対象となる事項(何を説明すべきか)、
  2. 説明の程度(どの程度具体的・詳細に説明すべきか)、
  3. 説明の主体(誰が説明すべきか)、
  4. 説明の相手方(誰に対して説明すべきか)

に分けられます。順を追って解説したいと思います。

(1)説明義務の対象となる事項

医師が患者に対して説明すべき事項は、具体的な状況で変わりうるために一般的基準を示すのは必ずしも容易ではありませんが、手術に際して説明義務違反の有無が問題となった事例に関する最高裁判例があり参考になります。

最高裁は、「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情がない限り、患者に対し、疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務がある」と判示しました(最判平成13年11月27日)
この最高裁判例は、手術の実施に際しての説明義務に関する事例ではありますが、外科だけではなく内科の領域でも基本的に妥当するものと考えられます。

ちなみに、平成15年9月12日付の厚生労働省による「診療情報の提供等に関する指針」は、かなり詳細な原則的説明事項を列挙しており、医師の説明義務違反を検討する上で大変参考になります。
同指針が具体的に掲げている事項は次のとおりです。

  1. ① 現在の症状及び診断病名
  2. ② 予後実施予定の治療法とその内容
  3. ③ 処置及び治療の方針
  4. ④ 処置する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用
  5. ⑤ 代替的治療法がある場合にはその内容及び利害得失(患者が負担する費用が大きく異なる場合には、それぞれの場合の費用を含む)
  6. ⑥ 手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要(執刀者及び助手の氏名を含む)、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無
  7. ⑦ 治療目的以外に、臨床試験や研究などの他の目的も有する場合には、その趣旨及び目的の内容

これはあくまでも厚生労働省が出している指針に過ぎず、裁判所の判断を拘束するものではありませんが、内容的にはよく整理されており前記の最高裁判例が判示した内容とも共通点が多く、大変参考になります。

(2)説明の程度

どの程度詳しく説明すべきかについても、疾患の緊急性、重篤性、患者の理解力などにより左右されるものであるため、ここでも一般的基準を示すのは難しいと思われます。裁判例の中には、「患者の現症状とその原因、その治療行為を採用する理由、治療行為の内容、それによる危険性の程度、それを行った場合の改善の見込み・程度、当該治療行為をしない場合の予後などについて、できるだけ具体的に説明すべき義務がある」としたものがありますが(東京地判平成4年8月31日)、これだけでは基準としてはわかりにくいでしょう。

この点に関しては、医師が患者に対して不明な点の質問を促したかどうかが重要であると考えます。

説明の程度

ポイントは、患者が自己決定権を行使するうえで必要となる情報を提供しているか否かにあるわけですから、患者に質問させることでおのずと情報も具体的になるはずで、患者も適切な自己決定権の行使ができると思われます。
言い換えれば、患者に質問の機会を十分に与えないと、説明は必要にして十分なほど具体的であったか否かが常に問われることになるといってよいでしょう。

ところで、他の病院が実施している程度の説明を行えば、医療水準に達していると考えることは許されません。
この点に関し、最高裁は、「大多数の医師が相当とする考え方に従って説明義務を履行した場合には違法ではない」とした下級審の見解を支持しませんでした(最判平成7年4月25日)。
医療慣行を医療水準とは考えない裁判所の立場が説明義務の領域でも採用されたことを意味しています。

(3)説明の主体

説明の主体は基本的に医師であるべきで、看護師などの医療補助者に説明を委ねることはできないと一般的には解されています。
医師が患者に対する説明を看護師などに委ねてしまうなどといったことは通常は考えられないので、この問題が顕在化することは現実には少ないと思います。

もっとも、ひとりの患者の診断・治療に際して、複数の医師が関与していることは決して珍しいことではありません。このような場合に、どの医師が患者に説明すべきなのかという問題が出てきます。
複数の医師が関与している場合には、原則として、患者に対して、検査や治療方針などに関して説明すべき医師は主治医であると考えてよいでしょう。

しかしながら、いわゆるチーム医療の場合には、主治医からの説明で十分であるといえるか否かにつき議論があります。
チーム医療においては、チーム全体の総責任者と主治医が異なる場合があるからです。
この点について、最高裁は、チーム医療の総責任者の説明義務に関し、
「患者の診療にあたってきた主治医が説明をするのに十分な知識、経験を有している場合には、主治医に説明を委ね、自らは必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許される」
と判示しています(最判平成20年4月24日)。
そうすると、通常は、患者の診療に関し十分な知識・経験を有している医師が主治医になっていると思われますので、特別な事情がない限り、チーム医療においても、原則として主治医の説明で足りるということになると考えられます。

(4)説明の相手方

原則として、説明の相手方は患者本人になると思われますが、小児科の分野では、説明の相手方は疾患を有している患児ではなく、両親や祖父母などの近親者となるという特殊性があります。
したがって、その説明の相手方はひとりであるとは限りません。

小児科の場合

例えば、母親に説明して同意を得ていればそれで足りると考えてよいのか、それとも父親にも説明して同意を取り付ける必要があるのか、などといったことが問題となります。
また、常に来院する時に、両親が同席しているとは限りません。
そのような観点からすると、常に両親二人に説明し、かつ両人からの同意を得なければならないとするのは現実的ではないと思われます。

もっとも、病状の説明くらいであれば両親のいずれかに説明してあれば足りる場合が多いでしょうが、施行予定の検査や治療方法の選択に関しては、その緊急性、必要性、安全性に応じてケース・バイ・ケースになると思われます。
例えば、一刻を争う緊急事態で速やかに手術を施行する必要性が高いなどといった場合には、同席していた親に説明し同意を得ていれば足りるとすべき場合が多いでしょう。
他方で、仮に子供の疾患がそれなりに重大でリスクの大きい治療方法を選択せざるを得ないような場合であっても、一刻を争うような状況ではなく、両親にある程度の熟慮期間を設ける時間的余裕がある場合には、いずれかの一方だけではなく、両親二人に説明し両名から同意を得ておく必要があると思います。

この点に関連して、下腿部皮植手術に際して、医師がその手術について一応の説明を行ったところ、母親が手術に同意したのに対し、父親はその必要性に疑問を持ち詳細な説明を求めたにも関わらず、医師が業務多忙を理由に説明しなった場合において、母親に対する説明と同意で足りるかが争われた小児科の事例があります。
この事例では、「特段の事情のないかぎり父親ら両親の承諾を得たうえで本件手術はなされるべきであった」として、医師の説明義務違反が肯定されています(横浜地判昭和54年2月8日)。
ここでは両親が同席していたことから医師は両親に説明をしているのですが、父親の同意が得られなかったという特殊事情があります。
ちなみに、この裁判例では、医師の説明が不十分だったとして母親の承諾も無効とされています。

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